桜色ノ恋謌
ホテルのレストランへ着くと、鳥羽さんが名前を告げたのを合図に席へと案内してもらった。



障害物なくパーク内が見渡せる、窓際に面した個室に入る。


席に着くと、溜め息混じりの苦笑を漏らして鳥羽さんが呟いた。



「……咲絢に『鳥羽さん』って呼ばれる度に、無性に自分が情けなくなる」


だってそれは仕方ないじゃん。今更名前でなんて呼べないし。


そうなってしまったのには、私達の間には色々とあり過ぎたからじゃんよ。


「……昔みたいなわけにはいかないです。私だっていつまでも中学生のままじゃないし」


そう。


昔交わした鳥羽さんとの約束を無条件に信じていられるほど子供じゃない。


それに、約束を信じて待てるほど、大人でもない。



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