桜色ノ恋謌
「……一つだけ、乗りたくなってきたな」


相変わらず窓の外を見たまま、咲絢がポツリと呟いた。


「乗りたいって。アトラクション?」

「うん。《wish world》。なんか、むしょーに癒し系のアトラクションに乗りたい」


なんだよ、それ。どんだけ疲れてんだよ、お前。


「もう人も少なくなってきたから、待ち時間なしで乗れるんじゃないか?行くか?」

ん、と言って咲絢が立ち上がった。


咲絢が身だしなみを整えている間に、俺は勘定を済ませる。


「ちょっと!今のお金、私が払うよ!?」そんなことを言いながら、店から出てきた咲絢が驚いていた。


「惚れた女に飯代払わせるほど、さすがの俺も腐ってはいませんよー」

苦笑して、喚く咲絢を黙らせた。


俯く咲絢の顔が、ほんのり赤く染まっている。


だからさ。


そういう顔は、梶さんだけに見せてろよ。


俺の前で、そんな顔してんじゃねぇよ。



「《wish world》はすぐそこだったっけ?」

「うん。このホテルの左側」


先に立って歩き出した咲絢に追い着き、黙って手を繋いだ。


驚いた顔で咲絢が俺を見上げる。


「今日だけ。今日で最後だから、このまま繋いでて?」


恋人繋ぎなんかじゃない。そんな事出来るはずもない。


ただ、俺の手のひらで咲絢の手を包み込んだだけの、幼稚な温もり。











それだけでも、俺の心が満たされるんだ。
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