桜色ノ恋謌
「……ごめん……」

「おかげで月島くんに無理矢理キスされたんだから。監督も乗り気でそのアドリブ使うみたいだし」


歯切れが悪い昂くんに、なおもあたしは文句を言いまくった。


「アドリブでキス !? 何も聞いてなかったぞ !?」

「昂くんが最後の最後に仕事放棄して遊んでるからじゃん」

「……マネージャー失格だな。本当に……」


昂くんはすっかりしょげてしまった。


「いいよ、もう。キスシーンはどうにかできればどうにかしてほしいけど」

「………分かった。後任の人に頼んでおくから……」



………は?



「昂くん、後任って何?」


夕焼けに照らされる車の中は、沈黙に包まれたまま。

昂くんの後ろ姿をずっとみつめて返事を待ったけど、いつまで経っても言葉は返ってこない。


ぽつりぽつりと街灯に灯りが点り出す。


あたしの寂しさを包んで、街は夕闇に沈んでいく―――。


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