桜色ノ恋謌
『咲絢』は、俺にとっては大切な女の子だ。


上に登ってほしいと願うと同時に、咲絢には変わってほしくないという二率相反した葛藤を抱えて、俺は咲絢のクランクアップを見逃した。




これで最後だと思うと、泣きたくなって咲絢の演技を見ていられなかったんだ。




………どこまでも上手くやってやれなかったよな、俺は。



まさか俺が見ていない最後のシーンで、月島がアドリブを入れてくるとは思っていなかった。



それが後々咲絢を苦しめる事になるなんて、考えもしなかったんだ。




―――本当に、ごめんな。咲絢。



だけどこの二年間、俺に一番近かった『異性』は咲絢だけ、だったんだよ。



「昂くん早っ。まだ8時だよ?」

「早くに目が覚めたんだよ。それにテーマパークなら早めに行かないと、咲絢が乗りたいアトラクションに乗れなくなるだろ?」


アトラクション、と聞いた咲絢は急いで身支度を整えた。


「伊達眼鏡。忘れんなって」

「ありがとー」


車に乗り込んだ咲絢に変装用の眼鏡を渡す。


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