桜色ノ恋謌
eclosion
■見えない敵
「咲絢、高橋さんがいらしたわよ!早く学校に行く準備して!」
お母さんに追いたてられるようにして玄関を出た。
「はい。久しぶりのお弁当」
「ありがとぉぉ!」
お母さんにお昼のお弁当を作ってもらうの、中学生の時以来だ!
「学校に行くのも久しぶりでしょ?お友達とは仲良くしなさいよね」
「はいはい。いってきます」
高橋さんが運転する車に乗って、お母さんに手を振った。
「お母さまがあなたの事を心配なさっていて、あちこちの編集者にあなたの仕事ぶりを聞いてるみたい。……とてもいいお母様ね」
「……はい」
お母さんを褒められたらくすぐったくなって、もしかしたら高橋さんもいい人かも知れないと思い始めた。
「高橋さんって、何歳なんですか?」
「私?今年で42才よ。結婚もしてないのに立派なオバサンよね」
「でも『仕事ができる女の人』って感じがします」
「そう?ありがと。でもこの業界には20年以上もいるんだから、できて当たり前なのよ」
「……すごいですね……」
あたしが生まれる前からこの世界にいた人なんだ。
結婚をしない……って。
そんなに仕事が好きだったんだろうか?それとも、何か理由があって結婚したくなかったのかな?
しょせんまだ16才にもなってないあたしに、理解できる人生ではないと思う。
それに、高橋さん自身からそれに対してフォローの言葉が出てこないし。