桜色ノ恋謌
この教室にはほとんど来たことがない。

菊司の芸能科は出席日数に単位を左右されないから、クラスのみんなが芸能人だったりする。


お母さんは朝ああいう風に言ったけど、あたしみんなと上手くやっていけるのかな?

入学式にみんなのアドレスぐらい聞いとけば良かったかな?




入学式より緊張しながら教室の扉を開き、机に向かって―――。


「……何、これ……」


まず最初に、驚いた。



机には油性マジックで『死ね』『ブス』『ヤメロ』……そんな否定的な文字がたくさん書き撲られている。


……一体誰が……?


呆然として教室を見回すと、あちこちからクスクスと嘲笑がさざめいた。


………なんで?あたし、誰かに何かした………?


担任の先生が入ってきたのはその時だった。


どうしよう。


こんな机、使いたくない。

だけど先生に言って、こういう事が酷くなるのも嫌だ。


自分で消す?

指がシンナーで荒れてしまう。そしたら仕事に差し支える。


50代の冴えない顔したオジサンみたいなその先生は、あたしの机を見ても何も言わない。


味方なんかいないんだ……。


結局あたしはその机で我慢する事にした………。


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