桜色ノ恋謌
ベッドに横になると、腕を出すようにと言われた。



「あら…。血管がみつからないわね。細くなったかな?ちゃんと食べてる?」

「……いいえ……」


今日、何回も聞かれた。


『ちゃんと食べてる?』『ちゃんと眠れてる?』


それだけで嬉しくて涙が出てくる。


あたしの事を心配してくれてる人がいるんだ。

一人ぼっちじゃないんだ。



「ようやく刺さった。点滴が終わる頃また呼んで下さいね」



看護婦さんはそう言って部屋から出ていった。


残された、あたしと恭哉くん。





……ありがとう、恭哉くん。



あたしに気づいてくれて。



でも……。




「今日、おばさん…咲絢のおふくろさんが帰ってきたら、すぐにもう一台スマホを契約してきて」


何を話せばいいのか分からなくて、黙りこんだあたしに向かって恭哉くんが言った。


「……スマホ?なんで?」

「後でちゃんと説明してやるから。おばさんには『家族専用の携帯が欲しいから』とか言って買って貰え」

「うん。分かった」


恭哉くんがそう言うのは、何か理由があるんだろうな。



「点滴の間、少しでも寝ておけよ」


あたしの頭を恭哉くんが撫でてくれている。

誰かに撫でられたのは久しぶりだ。




手のひらから伝わる優しさの中に、あたしはまどろんでいった―――。
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