呪島~ノロイジマ~
優しい夫の愛で、普通の生活を手に入れていた早紀。


もうずっと精神科にも通っていなかったけれど、急に不安に襲われてしまったから、冷静になれなくなっていた。



(行かなきゃ!)


ほとんど無意識のうちにバスに乗り、電車を乗り継いで、早紀はなんと新幹線に乗っていた。



もう頭の中は娘のことで一杯である。


不安で不安でたまらない。大声で叫びそうになるのをグッと堪えてただ震えながら、岡山に着くのを待ち続けた。



長い長い時を耐え、岡山駅に到着したのは午後五時を過ぎたところだった。


早紀は急ぎ足でホームを出ると、タクシー乗り場へと向かう。


途中『せとうち芸術祭』のポスターを見て、ふと足を止めた。




(そうだ。もう一度旅館に電話をしてみよう)


早紀は綾から貰ったメモ用紙を取り出し、今度は自分の携帯電話に、間違えずに番号を打ち込んで発信ボタンを押した。

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