夢のまた夢【短編集】
午後10時××分
都内某所
「いぇ~~い!
ほら、お前らも飲めって金ならいくらでもあるんだって。皆様の血税で有り難く上手い酒を飲ませていただいております!」
陽気に饒舌に振る舞う総理に
「お止めください、総理。
お口が過ぎます。」
と、第一秘書の古川が言う。
「ほら、女の子達シラケちゃったじゃん!
お前はなんで、そう、お固いかなぁ。
お前だってあれだろ?
本当は女の子、好きなんだろ?」
「確かに好き……
いやいや、総理……明日も早いですし」
「古川さぁ。俺らだって人間じゃん。
朝から晩までこんな風にさ、
眉間にシワ寄せてたってなぉんも世の中変わんないぜ。お前も飲めって。それとも何か?
お前は俺の酒が飲めないってのか?はぁ?」
「い、いえ、滅相もない。
ただ、総理。そのいくらこういうお店とは言え
ここもやはり公共の場な訳でして……」
「なんだって?古川、皇居がどうした?
花火でも打ち上げるか?」
「総理っ!こうきょう、公共の場と申し上げました。こういう公共の場での発言、お気をつけいただけますか?皆に示しがつきません。」
「お前はほんっとうっせぇなぁ。
公共、公共ってそれがどうした?ここにいるやつらには十分な口止め料払ってんだし、そもそも監視ロボットなら心配ないだろ?政府の人間には反応しないよう設定してるじゃないかーーー」
「総理っ!」
古川がテーブルをバンッと叩いたために
貸し切りにしているキャバクラ店内は静まり返った。
「はぁ?古川どうしちゃったのぉ?何、熱くなってんのよ。そういうパフォーマンスはさぁ、選挙前だけでいいんだって。なぁ?エネルギー無駄に使うなよ。こんな世の中じゃん、省エネにいこうや。ほら、飲みなおそ。ボトルどんどん持ってきてくれ。」
古川は一息吸うと片足をドンっとテーブルにつきーーー
「はあ?ワレ、何言うとんねん、さっきから黙って聞いとったら調子のええことペラッペラ抜かしやがって、いっぺん、お前のどたま、カチ割って脳みそにストローさしてチュウチュウ吸うたろか?はぁ?」
静まり返る店内に尚も古川の罵声が響く。
「大体やな。ワレの勝手で決めたんやろが。『国会でしゃべると野党からヤジが飛んできて僕ちん、怖くてヤダ。だから、法律で決めちゃうもんねぇ~~』って言うて、適当に言葉によるいじめだのなんだの調子のええこと並べ立てて法案どんどん通して、作っといて。ほんで、結局、なんやねん。金積んできた政府の人間には反応せんように設定って、どういうこっちゃねん!」
「ふ、ふ、古川?」
「さんや、さん、否、様つけろ」
古川の迫力に素直に
「古川様……」
と、呼ぶ総理。
ゆっくりとテーブルに着いていた足を下ろし一つ咳払いをするとスーツの襟を正し、古川はまた話始めた。
「失礼。ちょっと、興奮しすぎました。
しかしですね、総理。
確かに言葉による暴力許せないです。
ある意味、体を傷つけるより言葉の暴力によって受けた心の傷の方が深いかもしれません。
しかし、逆に言えば言葉には底知れぬ力があるってことじゃないですか。
ちょっとした言葉で助かる人もいるんです。
例えそれが美しい響きを持つ言葉でないにしても人、一人救えるくらいの力があるんです。
どうしてだかわかりますか?」
古川の問い掛けにただ首を横に振る総理。
「はぁ……情けない、それはですよ、
つまり人には心があるからじゃないですか!一人一人ちゃんと心があるから単に文字の羅列ではなく、感情のこもった言葉を吐けるんです。だけど所詮、人だから言葉の使い方を間違う時だってある。だからといってそれにいちいち制裁を与えるなんて間違ってる!」
半ば腰を抜かしたような姿勢で、今度は首を縦に振る総理。
「まちがった言葉を使ったやつがいたなら身近な人間が教えてやりゃぁいいんですよ。
それはダメだよって……例えね、そういう存在がいない場合でも世の中にはありとあらゆる形で文字が溢れてる。言葉が溢れてんですよ。
そっから学べばいいんです。ネットなり本なり、映画なり、音楽なり、テレビなり……いくらだって教えてくれる。いくらだって学ぶことが出来る。要はちゃんと感じ取れる心さえあればなんとかなるんです。それをことば裁判とかって?今の世の中、間違ってる、そうお思いになりませんか総理。あなたにまだちゃんと善悪を感じる心がおありだと言うならーーー」
午後11時からスタートの各ニュース番組に合わせて、ゆりは設定していたパソコンの画面を見ながらenterを押していた。
そしてーーー
総理と古川のやり取りは全てテレビを通じて全国民が知ることとなった。
都内某所
「いぇ~~い!
ほら、お前らも飲めって金ならいくらでもあるんだって。皆様の血税で有り難く上手い酒を飲ませていただいております!」
陽気に饒舌に振る舞う総理に
「お止めください、総理。
お口が過ぎます。」
と、第一秘書の古川が言う。
「ほら、女の子達シラケちゃったじゃん!
お前はなんで、そう、お固いかなぁ。
お前だってあれだろ?
本当は女の子、好きなんだろ?」
「確かに好き……
いやいや、総理……明日も早いですし」
「古川さぁ。俺らだって人間じゃん。
朝から晩までこんな風にさ、
眉間にシワ寄せてたってなぉんも世の中変わんないぜ。お前も飲めって。それとも何か?
お前は俺の酒が飲めないってのか?はぁ?」
「い、いえ、滅相もない。
ただ、総理。そのいくらこういうお店とは言え
ここもやはり公共の場な訳でして……」
「なんだって?古川、皇居がどうした?
花火でも打ち上げるか?」
「総理っ!こうきょう、公共の場と申し上げました。こういう公共の場での発言、お気をつけいただけますか?皆に示しがつきません。」
「お前はほんっとうっせぇなぁ。
公共、公共ってそれがどうした?ここにいるやつらには十分な口止め料払ってんだし、そもそも監視ロボットなら心配ないだろ?政府の人間には反応しないよう設定してるじゃないかーーー」
「総理っ!」
古川がテーブルをバンッと叩いたために
貸し切りにしているキャバクラ店内は静まり返った。
「はぁ?古川どうしちゃったのぉ?何、熱くなってんのよ。そういうパフォーマンスはさぁ、選挙前だけでいいんだって。なぁ?エネルギー無駄に使うなよ。こんな世の中じゃん、省エネにいこうや。ほら、飲みなおそ。ボトルどんどん持ってきてくれ。」
古川は一息吸うと片足をドンっとテーブルにつきーーー
「はあ?ワレ、何言うとんねん、さっきから黙って聞いとったら調子のええことペラッペラ抜かしやがって、いっぺん、お前のどたま、カチ割って脳みそにストローさしてチュウチュウ吸うたろか?はぁ?」
静まり返る店内に尚も古川の罵声が響く。
「大体やな。ワレの勝手で決めたんやろが。『国会でしゃべると野党からヤジが飛んできて僕ちん、怖くてヤダ。だから、法律で決めちゃうもんねぇ~~』って言うて、適当に言葉によるいじめだのなんだの調子のええこと並べ立てて法案どんどん通して、作っといて。ほんで、結局、なんやねん。金積んできた政府の人間には反応せんように設定って、どういうこっちゃねん!」
「ふ、ふ、古川?」
「さんや、さん、否、様つけろ」
古川の迫力に素直に
「古川様……」
と、呼ぶ総理。
ゆっくりとテーブルに着いていた足を下ろし一つ咳払いをするとスーツの襟を正し、古川はまた話始めた。
「失礼。ちょっと、興奮しすぎました。
しかしですね、総理。
確かに言葉による暴力許せないです。
ある意味、体を傷つけるより言葉の暴力によって受けた心の傷の方が深いかもしれません。
しかし、逆に言えば言葉には底知れぬ力があるってことじゃないですか。
ちょっとした言葉で助かる人もいるんです。
例えそれが美しい響きを持つ言葉でないにしても人、一人救えるくらいの力があるんです。
どうしてだかわかりますか?」
古川の問い掛けにただ首を横に振る総理。
「はぁ……情けない、それはですよ、
つまり人には心があるからじゃないですか!一人一人ちゃんと心があるから単に文字の羅列ではなく、感情のこもった言葉を吐けるんです。だけど所詮、人だから言葉の使い方を間違う時だってある。だからといってそれにいちいち制裁を与えるなんて間違ってる!」
半ば腰を抜かしたような姿勢で、今度は首を縦に振る総理。
「まちがった言葉を使ったやつがいたなら身近な人間が教えてやりゃぁいいんですよ。
それはダメだよって……例えね、そういう存在がいない場合でも世の中にはありとあらゆる形で文字が溢れてる。言葉が溢れてんですよ。
そっから学べばいいんです。ネットなり本なり、映画なり、音楽なり、テレビなり……いくらだって教えてくれる。いくらだって学ぶことが出来る。要はちゃんと感じ取れる心さえあればなんとかなるんです。それをことば裁判とかって?今の世の中、間違ってる、そうお思いになりませんか総理。あなたにまだちゃんと善悪を感じる心がおありだと言うならーーー」
午後11時からスタートの各ニュース番組に合わせて、ゆりは設定していたパソコンの画面を見ながらenterを押していた。
そしてーーー
総理と古川のやり取りは全てテレビを通じて全国民が知ることとなった。