夢のまた夢【短編集】
「第156代首相となりました前首相、第一秘書であった古川総理が官邸へと来られたようです。古川総理、一言いただけませんか、総理、総理ーーー」
あれから
瞬く間に世の中は大騒ぎとなり、総理は失職することとなった。そして、何故かあの時、総理にむかって啖呵を切った第一秘書の古川が国民から指示を得て、急遽次期総理となった。もちろん総理となった古川の最初の仕事はことば憲法を無くすこと。それにより間もなく、強制的に言葉を取り締まるような事は無くなった。
「へぇ、あの古川っておっさん、頑張ってるじゃん。」
ゆりの古くからの友人、藤本保はテレビの画面を消しながら言った。
「そうよね。まさか、あのガラの悪いエロおっさんが総理になるなんて……」
「ガラノワルイエロオッサン?」
「ううん、なんでもない」
「つうかさぁ、今回の件、お前の仕業だろ?
お前ほどの腕があれば電波ジャックなんて簡単だろ?」
「ま、まさか」
「お前、あん時、俺倒しといてどこいった?」
「倒してだなんて人聞き悪いなぁ。保がお疲れの様だったから寝かせてあげようかしらって……」
「何、調子良いこといってんの。大事な所に蹴り入れといて。大体さ、俺があの後、どれだけ心配したと思ってんの?めちゃくちゃ探し回ったんだぞ」
「保……ごめん」
「言ったろ?俺にとってお前の存在は男女の仲を超越するくらいのものがあるんだよ。わかるか?俺にとってお前は大切な存在なんだよ。」
「保……あのオッサンの言う通りだね。
不思議、言葉って人にいくらでも力を与えるね。心がいくらでも反応する。保にそんな風に言って貰えて私、幸せだよ。」
「ゆり……」
ソファにクッションを抱え横座りに座っているゆりに同じく隣に座る保がゆっくりと距離を詰める。そして互いに見つめ合う顔が近づき、後少しで唇が触れそうになりーーーー
「だぁーーーーっ、やっぱ無理、お前とは出来ねぇーーーっ」
「保っ、この意気地無し!なんで止めんのよ。もうちょっとじゃないのよ。一線なんてね、案外、飛び越えてみりゃ大したことないのよ。ほら、ほら、」
保に詰め寄るゆり。
「ま、ま、待て。とにかく待て。
そ、そそそそそうだ!お前に聞きたい事があったんだ。」
「聞きたいこと?なによ?」
ゆりは不貞腐れた顔で聞き返した。
「あの騒動の時にさラスト、一瞬、変な動画流れたよな?」
「変な動画?」
「ああ、アキバにある国立アニメーション博物館で確か見たことあんだけどーーー
セーラーなんとかっつう大昔に流行った女戦士の格好をしたやたらと体格の良いのがさ画面に写ったと思ったら『月に代わってお仕置きよっ』とかなんとかーーーあれって、お前じゃね?」
「な、な、なんのこと?
意味わかんないし。そ、そうだ!またしよオセロ。保、相手してよぉ。どうやら。また転勤になりそうなのよぉ。」
「転勤?この前、火星から戻ったばかりじゃん。っで、今度はどこ?」
「んーーーっと、どうやら……月みたい」
保の言う通り、大昔に流行った女戦士の格好を
して決め台詞を吐いている動画を流したのはゆりだった。もちろん、ゆりがコスプレをして事前に用意していたものだった。
ゆりの夢は叶った。
ゆりは子供の頃、たまたま親に見せてもらった女戦士のアニメを見てから、いつか自分も世の中に蔓延る悪を倒すんだ。そう、心に決めていた。そしてそれは、同時に自分はヒーローではなくヒロインとして生きて行きたいのだなと自覚したきっかけでもあった。
「よーし、今日はとことんやるからね。
保、今夜は寝かせないから、覚悟して」
そう言うと、ゆりはバーチャルオセロの画面を空中に写し出す。
ゆりは転勤で月へ行ったなら、まず最初にあの女戦士の格好をして写真を撮ろう。
そしてーーー
出来ればまともにオセロが出来る相手を早々に探さなくてはと、そんな事をぼんやりと考えながら初めの一枚を白にひっくり返した。
終
あれから
瞬く間に世の中は大騒ぎとなり、総理は失職することとなった。そして、何故かあの時、総理にむかって啖呵を切った第一秘書の古川が国民から指示を得て、急遽次期総理となった。もちろん総理となった古川の最初の仕事はことば憲法を無くすこと。それにより間もなく、強制的に言葉を取り締まるような事は無くなった。
「へぇ、あの古川っておっさん、頑張ってるじゃん。」
ゆりの古くからの友人、藤本保はテレビの画面を消しながら言った。
「そうよね。まさか、あのガラの悪いエロおっさんが総理になるなんて……」
「ガラノワルイエロオッサン?」
「ううん、なんでもない」
「つうかさぁ、今回の件、お前の仕業だろ?
お前ほどの腕があれば電波ジャックなんて簡単だろ?」
「ま、まさか」
「お前、あん時、俺倒しといてどこいった?」
「倒してだなんて人聞き悪いなぁ。保がお疲れの様だったから寝かせてあげようかしらって……」
「何、調子良いこといってんの。大事な所に蹴り入れといて。大体さ、俺があの後、どれだけ心配したと思ってんの?めちゃくちゃ探し回ったんだぞ」
「保……ごめん」
「言ったろ?俺にとってお前の存在は男女の仲を超越するくらいのものがあるんだよ。わかるか?俺にとってお前は大切な存在なんだよ。」
「保……あのオッサンの言う通りだね。
不思議、言葉って人にいくらでも力を与えるね。心がいくらでも反応する。保にそんな風に言って貰えて私、幸せだよ。」
「ゆり……」
ソファにクッションを抱え横座りに座っているゆりに同じく隣に座る保がゆっくりと距離を詰める。そして互いに見つめ合う顔が近づき、後少しで唇が触れそうになりーーーー
「だぁーーーーっ、やっぱ無理、お前とは出来ねぇーーーっ」
「保っ、この意気地無し!なんで止めんのよ。もうちょっとじゃないのよ。一線なんてね、案外、飛び越えてみりゃ大したことないのよ。ほら、ほら、」
保に詰め寄るゆり。
「ま、ま、待て。とにかく待て。
そ、そそそそそうだ!お前に聞きたい事があったんだ。」
「聞きたいこと?なによ?」
ゆりは不貞腐れた顔で聞き返した。
「あの騒動の時にさラスト、一瞬、変な動画流れたよな?」
「変な動画?」
「ああ、アキバにある国立アニメーション博物館で確か見たことあんだけどーーー
セーラーなんとかっつう大昔に流行った女戦士の格好をしたやたらと体格の良いのがさ画面に写ったと思ったら『月に代わってお仕置きよっ』とかなんとかーーーあれって、お前じゃね?」
「な、な、なんのこと?
意味わかんないし。そ、そうだ!またしよオセロ。保、相手してよぉ。どうやら。また転勤になりそうなのよぉ。」
「転勤?この前、火星から戻ったばかりじゃん。っで、今度はどこ?」
「んーーーっと、どうやら……月みたい」
保の言う通り、大昔に流行った女戦士の格好を
して決め台詞を吐いている動画を流したのはゆりだった。もちろん、ゆりがコスプレをして事前に用意していたものだった。
ゆりの夢は叶った。
ゆりは子供の頃、たまたま親に見せてもらった女戦士のアニメを見てから、いつか自分も世の中に蔓延る悪を倒すんだ。そう、心に決めていた。そしてそれは、同時に自分はヒーローではなくヒロインとして生きて行きたいのだなと自覚したきっかけでもあった。
「よーし、今日はとことんやるからね。
保、今夜は寝かせないから、覚悟して」
そう言うと、ゆりはバーチャルオセロの画面を空中に写し出す。
ゆりは転勤で月へ行ったなら、まず最初にあの女戦士の格好をして写真を撮ろう。
そしてーーー
出来ればまともにオセロが出来る相手を早々に探さなくてはと、そんな事をぼんやりと考えながら初めの一枚を白にひっくり返した。
終