夢のまた夢【短編集】
こうして
色んな人がやってきては
私に訳の分からないことばかりを言う。

どうしてだろうか?

そんな事を思いながら
私は今日もこぼれ落ちてゆく砂を
両手で受け止める。

けれども
どんなに上手く受け止めようとしても
指の隙間からサラサラ、サラサラとーーー

ああ、
また蝉も鳴き出した。

なんて賑やかな頭なのだろうか。

嫌気がさした私は
ある時、頭をこじ開け
蝉を掴み出してやった。

そして
その蝉を雲ひとつない青い空へと
放してやると

高く高く飛んでいった。

ああ、
これで楽になる。

飛んで行く蝉を見ながらそう思った。

眠れぬ夜から解放される。
私も間もなくあの蝉のように
空高く、飛んでゆけるのだろう。

それまでに
手からこぼれ落ちた砂を
もう少しかき集めるとしよう。

私は昔からきれい好き。
汚したままでは
気がすまないの。

こぼれ落ちた砂をかき集め
こぼれ落ちた砂をかき集め

ひとつ、ひとつを
繋ぎ止めて行く。

私は何も忘れてはいやしない。
何も捨ててはいやしない。

だから
こうして、かき集めているじゃないの。

ああ、風よ吹かないで。
大切な砂が四方八方へと
散ってゆくじゃないの。

いつまでたっても
集まりやしない。

そうこうしているうちに
ほら、
また新しい蝉が私の頭の中で
鳴き出した。

ジジジ、ジジジと

煩く忙しく鳴き出した。

どうやら私はまだ青い空へと
飛び立つ事を許しては
もらえないと言うのか。

ああ、
また、眠れぬ夜が
私を困らせる。

私を苦しめる。

私は何一つ
忘れてはいやしない。
何一つ
捨ててないというのにーーー

周りが私の存在を捨てたのだ。
私と言う人間を諦めたのだ。

私は何一つ
諦めてなんかいないというのに。

そうこうしているうちにも
砂はこぼれ落ちてゆく。

だから、
私は指の先を赤くしながらも
かき集めるの


こぼれ落ちてゆく砂をーーー

ーーーかき集めるの









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