夢のまた夢【短編集】
街の外れにある古くて大きな白い洋館。
庭先には数々のハーブが咲き乱れ、何とも言えない良い香りがしていて、
ある時、私は気づくとその門をくぐり抜け
その庭先へと足を踏み入れた。

普段の私なら決してそのような事はしない。
人様の敷地に勝手に入るなんて……。

ただ、少し疲れていた。
繰り返される足の引っ張りあいに
決して心落ち着くことなどなく
ただ、自分勝手に感情と欲望を
手当たり次第にぶつけては

そのくたびれた精神のやり場に困っていた。

バジルにレモングラス、ミント
ローズマリーにラベンダー……

他にもたくさん種類があるのに
その香り達は決して喧嘩しない。
確かな存在感を出しながらも
上手く調和している。

ーーー人と大違いだな

華やかな世界では
上手く自分を見せたものにしか
褒美は来ない。

その褒美を得るためには時にーーー
自らを汚すことも必要となる。
そして一度、身に付いた汚れは
次から次へと泥を塗り込むことで
気にならなくなる。

私はそうして
今の地位を得た。

世界を駆け巡る
トップモデルの地位をーーー

「ローズヒップのお茶でも
お煎れしましょう。」

「あっーーーー」

声に振り向くと、
テラスに一人の男性が立っていた。

「ご、ごめんなさい。
勝手にお庭に入ってしまって……
失礼します。」

門の方へと慌てて足を向けると

「お茶飲んでからにしませんか?
そのぉ、ーーー口説いてます。
それともこんなおじさんでは
相手になりませんか?」

照れた笑みを浮かべながら
男性は言った。
見るからに疲れきった私を
引き留める口実とはいえ
その誘い文句に私は素直に乗っかる事にした。















< 24 / 31 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop