夢のまた夢【短編集】
撮影の仕事で郊外まで来ていた私は
日光待ちの間に少し近辺を散策してみることにした。

撮影場所の海辺から少し歩いてゆくと
丘が見えた。私はその丘に登るべく
緩やかに続く坂道をゆっくりと登っていった。

ーーーきっと丘から見る海の景色は美しいはず

私は昔から美しいものに惹かれた。
美しい洋服に、キラキラとひかる美しい宝石、
そして私自身の美しく整った顔もとても好きだった。

だから、美しい景色を見るのもそのひとつ。
10代の頃からティーンズ雑誌なんかで
お仕事をしていた私は自由に
色んな土地の景色を見て回ることなんて
出来なかった。

その代わり
写真でそれらを見ては
その間だけでも行った気分になっていた。

坂を登りきり丘に立った私は目の前に
現れた景色に言葉を失う。

それは
丘から見下ろした景色にではなく
目の前に建つ毎夜、夢に出てくる洋館が
そこにあったから。

何もかもが同じだった。

早速、夢と同じように門をくぐり抜け
庭に咲き乱れるハーブを目にする。

そして
スゥーーーーーッと
息を吸い込む。

ハーブの香りが私を癒す。

そしてテラスに目をやると
そこにはあのナチュラルウッドの
テーブルセットが、あった。

ただ、夢に出てくる男性は立っていなかった。

夢の中の私同様、
庭先に漂うハーブの香りが
私の心を突き動かすのか
私は思いきって、玄関にまわり
ドアに手をかける。

するとーーー

私が開ける前にドアはゆっくりと
開き、

「待っていたよ」

あの男性が、
穏やかな笑みを浮かべながら言った。

「待っていた?」

「そう、あなたが夢の続きを
確かめに来るのを僕は待っていました。
ずぅっとね。」

「えっと……話がよくわからなくて。
私、実際にここに来たことが?」

「あなた、いつも同じ夢を見ているでしょ?
夢の中で僕に会っている筈だ。」

「え、ええ……確かにそうだけど……。」

頭が混乱しているのがわかる。

「そしてあなたはいつも同じところで目覚める。だから夢の続きを見たいと思っていた。違う?」

「み、見れるんですか?」

「あなたが心から望むなら……見れますよ。」











私はその男性の話を信じてみることにした。






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