夢のまた夢【短編集】
ーーーここ、知ってる
不思議と私は今、夢を見ていて
その夢の中にいるんだという自覚があった。
そして、実際には来たことがないのに
妙に知っているその景色を
じっと見つめていた。
「どこだったかしら……?」
もしかして、以前に撮影で来てた?
だけど、どう記憶を辿ってもやはり、
この場所に実際には来ていなかった。
ふと、辺りを見渡すと
人影が見えた。
白い砂浜に横たわる壊れた漁船に
腰を下ろし、その人はそこにいた。
私はゆっくりと一歩を踏み出した。
と、同時に足に伝わる感覚で
私は裸足で砂浜を歩いていることに気づいた。
ーーーーいけない
貝殻で足でも切ったら撮影がーーーー
いや、
ここは夢の中なのだと
冷静になり、また歩みを進める。
そして、
その人の側までくると声を掛けた。
「こんにちは、何をしているの?」
私の声に顔を上げたその人は
正に、あの男性だった。
ただ、目の前の彼はとても若かった。
「あっ……。」
驚いて思わず声が出る。
「ん?どうしました?何をしているかって?
苔をね採取しているんですよ。船底にほらこんなにも。良い色してるでしょ?」
満足げに話すその人に適当に
相づちを返す。
「確か、大学で植物の研究……?」
「えっ?いや、まだ学生なので研究というより学んでいます。」
そっか、夢の中では彼は学生さんなんだ。
目の前の彼は実に饒舌に苔の話をしてくれた。
ほとんど意味は分からなかったけれど
一生懸命話す彼の姿がとても素敵に思えた。
どれくらい話しただろうか
どれくらい一緒にいただろうか
私は不思議と彼のことが好きになっていた。
昔から慎重派の私は
一目惚れなどするタイプではない。
けれど、何故か彼には恋心を
意図も簡単に抱くことが出来た。
何故か古くから彼を知っている気がした。
それは彼も同じように感じてくれているようだった。
夢の中で私達は幾日も過ごし
互いの事を話し、
そしてーーー
波の音が微かに聞こえる
あの洋館で、私は彼に抱かれた。
彼の愛撫は私を満たし
私の体の隙間と言う隙間を
全て埋め尽くしてくれる。
私は久しぶりにーーー
いえ、恐らく初めて『愛』という
ものを知った。
私は彼に愛されているのだと心から
実感することが出来た。
事が終わり、まだ余韻に浸っている私を置いて彼はするりとベッドから出ようとした。
「行かないで」
彼の腕を掴んだ。
「どこにもいかないよ。」
彼はあの穏やかな笑みを浮かべると
続けてこう言った。
「いこうとしているのはあなただ。
いっちゃ、ダメだ。
植物しか話し相手のいない僕を
一人にしてどうするつもり?」
「一人に……し、て……?」
彼の言う事が理解できないでいたら
彼は更に言葉を続けて言った。
「あなたは少し眠りすぎのようだ。
もう十分寝たろ?
さあ、朝が来る。
生まれたての新しい朝が今日もやってくる。
いい加減、起きておくれよ、真奈美?」
「真、奈美……ま、な、み、?」
「ああ、君の名前だよ。
忘れたのかい?
僕の名前も忘れた?」
「あなたの名前……」
「そう、僕の名前はーーー」
「藪沢 俊樹
ーーー君の夫だよ。」
不思議と私は今、夢を見ていて
その夢の中にいるんだという自覚があった。
そして、実際には来たことがないのに
妙に知っているその景色を
じっと見つめていた。
「どこだったかしら……?」
もしかして、以前に撮影で来てた?
だけど、どう記憶を辿ってもやはり、
この場所に実際には来ていなかった。
ふと、辺りを見渡すと
人影が見えた。
白い砂浜に横たわる壊れた漁船に
腰を下ろし、その人はそこにいた。
私はゆっくりと一歩を踏み出した。
と、同時に足に伝わる感覚で
私は裸足で砂浜を歩いていることに気づいた。
ーーーーいけない
貝殻で足でも切ったら撮影がーーーー
いや、
ここは夢の中なのだと
冷静になり、また歩みを進める。
そして、
その人の側までくると声を掛けた。
「こんにちは、何をしているの?」
私の声に顔を上げたその人は
正に、あの男性だった。
ただ、目の前の彼はとても若かった。
「あっ……。」
驚いて思わず声が出る。
「ん?どうしました?何をしているかって?
苔をね採取しているんですよ。船底にほらこんなにも。良い色してるでしょ?」
満足げに話すその人に適当に
相づちを返す。
「確か、大学で植物の研究……?」
「えっ?いや、まだ学生なので研究というより学んでいます。」
そっか、夢の中では彼は学生さんなんだ。
目の前の彼は実に饒舌に苔の話をしてくれた。
ほとんど意味は分からなかったけれど
一生懸命話す彼の姿がとても素敵に思えた。
どれくらい話しただろうか
どれくらい一緒にいただろうか
私は不思議と彼のことが好きになっていた。
昔から慎重派の私は
一目惚れなどするタイプではない。
けれど、何故か彼には恋心を
意図も簡単に抱くことが出来た。
何故か古くから彼を知っている気がした。
それは彼も同じように感じてくれているようだった。
夢の中で私達は幾日も過ごし
互いの事を話し、
そしてーーー
波の音が微かに聞こえる
あの洋館で、私は彼に抱かれた。
彼の愛撫は私を満たし
私の体の隙間と言う隙間を
全て埋め尽くしてくれる。
私は久しぶりにーーー
いえ、恐らく初めて『愛』という
ものを知った。
私は彼に愛されているのだと心から
実感することが出来た。
事が終わり、まだ余韻に浸っている私を置いて彼はするりとベッドから出ようとした。
「行かないで」
彼の腕を掴んだ。
「どこにもいかないよ。」
彼はあの穏やかな笑みを浮かべると
続けてこう言った。
「いこうとしているのはあなただ。
いっちゃ、ダメだ。
植物しか話し相手のいない僕を
一人にしてどうするつもり?」
「一人に……し、て……?」
彼の言う事が理解できないでいたら
彼は更に言葉を続けて言った。
「あなたは少し眠りすぎのようだ。
もう十分寝たろ?
さあ、朝が来る。
生まれたての新しい朝が今日もやってくる。
いい加減、起きておくれよ、真奈美?」
「真、奈美……ま、な、み、?」
「ああ、君の名前だよ。
忘れたのかい?
僕の名前も忘れた?」
「あなたの名前……」
「そう、僕の名前はーーー」
「藪沢 俊樹
ーーー君の夫だよ。」