夢のまた夢【短編集】
岡山駅に昼過ぎに到着した私は
在来線に乗り換え倉敷へと向かう。
美観地区の中にある老舗旅館に
今日の宿を取っている。
その宿からなら美術館にも
行きやすいからだ。
しかし、
大原美術館へは明日、行くことにした。
どうしても気が乗らなかったのだ。
ここのところ、少し無理をしていたのが
良くなかったのだろう。
だから、どうってことない女性の戯言に
囚われてしまっているのだろう。
そう、思っていた。

倉敷についたものの
旅館のチェックインまで時間があるので
駅近くの喫茶店にて時間を潰すことにした。

適当にテーブルにつき、
何気なく目を向けた先に
私は釘付けになった。
何故ならその店に置いてあるテレビから
元夫殺しの女が逃走の末
京都駅で待ち構えていた警察官に先ほど
逮捕されたとのニュースが
伝えられていたからだ。
そして、画面に写る元夫殺しの犯人の写真は
正に私がつい数時間前まで新幹線の並びの席で話していた人物だった。

蚊を殺したのだと話していたあの女性だ。

ニュースによると
現時点で分かっているのは
元夫との金銭トラブルに
悩んでいたこととーーー

絞殺であること。

ーーーそうか、あの時、感じた違和感は
蚊を殺すのにあの女性は絞めたという
表現をしていた

私は漸く、引っ掛かっていたことが
ハッキリとし心が軽くなった。

引き続きニュース番組に
注目すると

ーーー尚、元妻は明らかな殺意は認めるものの
殺したのは蚊であると繰り返し話しており
それ以外については今のところ黙秘しているとのことです。これにより今後、精神鑑定の必要の有無が事件を左右すると思われます。
つづいてのニュースですーーー






私はそのニュースをただ聞いていた。
別に精神科医としてでもなく
ただ、聞いていた。

そして
珈琲カップに一口つけると
やはり珈琲を飲むなら
紙コップより
こちらの方が旨いなと改めて思った。

その時、
私の心はまた、大原美術館へと
向けて動き出した。






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