俺を誘いたいのなら
そこまで欲しいなら、奪いに行けよ
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一旦小休憩をはさむ。大きな木の下で4人は座り込み、それぞれのお茶を手にする中、予告通り、美春は持ってきたお菓子を広げた。
「あ、慶介が好きなクラッカー、持ってきたら良かったねえ。忘れてた」
笑って言っても、慶介は、ずっと無言。
「甘い物、嫌いじゃなかったっけ?」
先生もちゃんと輪に入ってくれる。
「味の薄いクラッカーなら結構好きなんですよ、ねえ?」
美春はやはり慶介を見つめてにっこり笑う。
「……」
なのに、何も言わない。
「どうしたの? 疲れた?」
「別に……」
慶介は、こちらのことなどどうでも良さそうに、ふいとペットボトルを元に戻し、立ち上がる。
「ささ、慶介の分も食べようぜ」
誠はそんなことお構いなしに、クッキーにがっつき始めた。
慶介は何も言わず、そのまま立ち上がって、歩いて行ってしまう。もう仕事をはじめるのかなと思ったが、がんじきを通り過ぎた。
美春は心配になって、まだお茶が入っているコップをその場に置くと、後を追いかけた。
「ねえー! どうしたの? 大丈夫?」
走って追いかけるとすぐに手が届く距離まで縮まる。
「別に……」
「調子悪い? そういえば朝からあんまりしゃべらないよね」
顔を覗き込んだが、顔色はいつも通り。
「いつ俺がだらだら喋ったんだよ」
「や、……まあいつもそんな感じだけど……」
「早く行けよ」
慶介はどこも見ずに冷たく言い放った。
「え、どこに?」
「アイツ、待ってっぞ」
「…………待ってなんかないよ」
真剣な顔をしてしまうのは、慶介が遠くを見たままでこちらを振り返らないから。
「い……、今がチャンスだろ。茶でも注いでやれよ」
「そんなことできるわけないじゃん」
「……けど、アイツがいいんだろ?」
「…………」
「他に女がいるかもしんねーけど、そこまで欲しいんなら、奪いに行けよ」