Sympathy For The Angel
結局最後まで残って食べていたのは樹だった。

空いた皿を洗浄機に入れると、美優紀が気を回してくれた。

「椿さん、後片付けは私がやりますから、椿さんと樹さんはおでかけして下さい」

「でも……」

「あとは乾いたお皿を片付けるだけですから楽勝です」

「具合が悪くなったらすぐ呼べよ」

樹に向かって微笑む美優紀を見たが、体調は良さそうだと思える。




くれぐれも無理はしないように重ねて注意を与えると、私達は単車に乗り込んだ。


少しだけ後ろ髪を引かれる気持ちを抑えてバイクは走り出した。






「ねえ!どこ行くの?」

向かい風に負けないような大声で樹に問うた。

「本部」と短い返事はたっぷり2分ぐらい経ってから返ってきた。


本部でゆっくりするの?

紅蓮を抜けた今、本部に行くのは躊躇われるんだけどな。




「え。樹の私室?」

樹が私の手を引っ張って連れて行こうとしたのは、樹の私室だった。




「なんだよ。嫌なのかよ」

機嫌を損ねたのか、憮然として樹が睨みをきかせた。


そりゃ嫌に決まってるじゃん!


「………こないだの会議で、オンナ連れ込んでた……。ヤってたベッドとか、見たくもない……」


そんな部屋には行きたくないよ。

いくら私が度胸据わってるからって、他のオンナとヤってた部屋なんて入りたくない。

たとえそれが枕営業で気持ちが無かったとしても。



「分かった。なら、お前の部屋でいいか?」

「それならいいけど」


3階の端、樹の私室とは反対側に位置する私の私室に方向転換する。


紅蓮本部の建物と敷地は、紅蓮の幹部OBや元メンバー達が各々資金を出しあって買い上げている。


それに元はホテルだから、部屋数もそれなりにある。


維持費にしても彼等が援助してくれているので、少なくとも住む事に関して不自由はないのだ。







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