Sympathy For The Angel
私は父に腕を引かれ、半ば強引に空いた研究室のような部屋に連れて来られた。

「………お前はあの娘の病気の事を知っていたのか!?」

「……心臓病だというのは知ってた……」


父が次にどのような言葉を紡ぐのかが分からなくて、わざと無難な答えを返す。


「……娘が八神准教授の元患者だという事は?あの娘が、八神准教授の小飼いの個人病院に回された事は?知らないのか?」



「………知らないよ、そんなの」




迂闊な返事をすれば、美優紀に迷惑がかかる。




「………八神准教授は三橋教授の金庫番だ。 ……そして、三橋教授は私の対立候補の林原准教授を推している」


「……だから、何よ!?」




まさか、この人は。




「……八神准教授が見捨てた患者を私が拾ったとなれば、同情票が集まる。しかも手術が必要な患者を放り出した八神准教授の不始末は、三橋教授が拭わなければならない」


「……止めてよ!美優紀を使わないで……!」


誰か止めて。


この馬鹿げた茶番劇を。







「よくやったな、椿。来月の医局選に必要なカードが全て揃った」









―――ああ、この悪魔に、
      どうぞ憐れみを―――。






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