Sympathy For The Angel
「私、早く帰りたい。あの人達が美優紀に何するか分からないから」

「……言ったらなんだけど、お前の両親も大概な俗物ぶりだよな」

「まあね。自慢の父と母だよ」


鼻で笑うしかない。八神諒はそんな両親を持つ私に同情でもしてるんだろうか?


「俺の家はもっと酷い。俺の弟が亡くなった時も、一週間後には外国旅行に行って豪遊してた」

「……弟が、いたんだ……」


その時、八神諒は何を思ったんだろう?


「弟はまだ5才で、先天性の病気を抱えていた。一族が手を尽くしたが、どうしても駄目だった」

「……名医達でも治せない病気ってあるんだね」


呟いた私の言葉も、八神諒には聞こえていないようだった。


「弟の小さな棺に寄り添いながら、弔問しに来た奴等を殴りたくなった。皆、弟の為に来てるんじゃない。八神の名前に釣られて来ているだけだ。本当に弟の死を悲しんでいたのは、俺だけだった」


淡々と語る八神諒からは、心の痛みを堪えている事がよく伝わってくる。


「見るの辛いね、そんなの」


どうしてだか八神諒の頬を撫でようとしているのに気がついて、私は急いで手を引っ込めた。危ない危ない。


「だから俺は、小児科医になりたいんだ」




私を真っ直ぐみつめる八神諒の目には迷いがなくて。


「……なれるんじゃない?アンタなら」


そんな言葉が私の口からでるのも不思議だ。


フッと笑った八神諒が、「出るか」と席を立ったので私もそれに倣った。


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