Sympathy For The Angel
「樹の家の事情、お前も聞いた事あんだろ?樹が施設で何をされたのかも?」

「あるけど……。それがホストクラブとどう繋がるの?」

「樹の居場所は、お前にしか作れない。それだけは覚えていて欲しい」

「……手遅れじゃない?」


今度は振り返ることなく、私は会議室へと降りて行った。



私が会議室に入ると大体の幹部が揃っていたが、皆一様にして浮かない顔を並べている。

ヒロと司もそれぞれ与えられた席についたが、肝心の樹が何時になってもやって来ない。


皆がじりじりしながらしびれを切らして待っていると、ようやく樹が会議室に入ってきた。


その後ろから入ってきたのは、さっきのキャバ嬢。


流石にこれには皆が呆気にとられた。



紅蓮のトップのオンナ以外を、幹部会議に出席させる事。



しかも、トップの隣の席に侍らせたという事実。


これに気がつかない人間はこの場にはいないだろう。



つまり、トップのオンナは私ではないという事だ。



進行役のヒロが言葉を発する前に、私は席を立ち上がって宣言した。


「……今日限り『蘭』は、『紅蓮』を抜ける」


私が言い放った途端、会議室はざわめき始めた。

だが、私はもうここに用はない。



上座に座る樹を一瞥して、私はゆっくりと会議室を立ち去った。







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