Sympathy For The Angel
私がこうしている間に、もし蘭のメンバーに万が一の事態が起きたらとそればかりを心配していたが、どうやらそれは杞憂に終わりそうだ。


ほうっと息を吐き出したとき、隣で吹き出す声がした。


「心配事でもあるんですか?遊佐椿さん?」


敢えて顔を向けずに声の主を横目で見遣った。


身長は180センチに満たない、やや細身のインテリっぽい雰囲気の男。

年は私と同じぐらいだろうか?

サラサラと流れるアッシュブロンドの髪が、瞳にかかりその表情を隠している。

コイツもイケメンの部類に入るんだろうな、なんてぼんやり考えた。


「……私の名前を知ってるんですか?」


口を開くのも億劫だが、一応社交辞令として聞いてみた。


「椿さんの本名は、お父上からお伺いしましたよ。もっとも、椿さんの存在は大分前から知ってはいましたけどね」

「……私、そんなに有名人ですか?」

ありえねーだろ。

医療関係の人間とは悉く付き合わないようにしてきたのだから。


「またまた。有名じゃないですか。……『紅蓮』のニケ……ですよね?」

「っ…!!」

「違いますか?確か、レディースチーム『蘭』の旗に描かれている羽は、ギリシャ神話の勝利の女神、ニケを表したのではなかったのですか?」


目の前のこの男は危険だ。

これ以上近付くなと、本能が警告音をしきりに鳴らす。



「……つーかさ、蘭は紅蓮を抜けるんだろ?だったら紅蓮に勝利の女神は要らねぇし。俺達の所に来いよ、蘭のトップさん?」

いきなり口調が変わったその男は、更に私との距離を縮めてきた。

「アンタに話す必要はない。大体、アンタ何者?」


殺気だって睨むものの、男は怯んだ素振りすら見せない。


「……『狂宴』…って言えば分かるか?」


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