Sympathy For The Angel
「……椿さん……」
ルカやミヤ、ユキノの視線が意味する事は、私にもよく分かっている。
皆が落ち着いた様子を見届けてから、私は八神諒に近づいた。
「うちのメンバーを助けてくれたのには礼を言う。どうもありがとう。お陰で助かった。……だけど、私はアンタのオンナにも、狂宴のメンバーにもなるつもりも、ないから」
その言葉ははっきりと、八神諒にも伝わった筈だった。
だが意に介さないとばかりに笑う八神諒には、その妖艶な顔にすら殺気立つほど、私は憤りを覚えている。
「……今他のチームのヤツに言っただろ?取り敢えず椿は今から俺のオンナだから。紅蓮の元には戻さねぇよ」
尚も食って掛かろうとした時、目の前に黒いスモーク張りの車が停まった。
「お前ら皆、そんな格好じゃ寒いだろうが。さっさと帰って着替えろよ」
それだけを言い残すと、一言もくれることなく八神諒は自分の単車を操り、元来た道を引き返していた。
車中、話す者は皆無だった。
私自身、頭が混乱していて何をどうすれば良いのかが分からない。
紅蓮から決別してすぐ、狂宴の仲間になる?
まさか。そんな選択をするつもりはない。
だが、さっきの炎龍の奴等から紅蓮の内部分裂と蘭の裏切りの噂が巷に拡がることは絶対に避けられないだろう。
暗い窓に映る私の鏡像の瞳には、どこまでも深く黒い闇が渦巻いていた――――。