Sympathy For The Angel
玄関を開けてすぐにリビングでネクタイを弛める父をみつけた。


「少し帰宅時間が遅くないか?」

私の様子を伺いながら、偉そうに説教を垂れる父には失笑した。

が、今は美優紀の事を頼みたいから迂闊に相手を怒らせないに限る。


「あのさ。ハウスキーパーってか、私の身の回りの事をやってくれるメイドみたいなコを雇ってほしいんだけど」

「まあ…。お前が言うなら構わんが。誰かめぼしい人間がいるのか?」

父は上着を脱ぎ捨てて、ソファーの上に無造作に置いた。


あーあ。あのスーツ絶対皺になるな。

もっとも私の関与する事ではないけれど。


「いるよ、メイド候補。今週中からでもいいでしょ?」

「……それは良いが。その代わり、一つだけ言うことを聞いて貰う」

「言うことって、何?」

「八神先生のお孫さんが、どうしてもお前にもう一度会いたいと言って下さっている。今度の土曜にでもな。」

「えぇ!?」

「嫌ならこの話は無かったことにする」

「分かった、会うから!だけど一回だけだよ!?」

「交渉成立だな。お前も分かっている通り、今度の選挙には八神先生のご助力が必要なんだ。このチャンスを逃すわけにはいかないんでな」

「きったねぇ大人……」

「お前の言葉使いの方が余程汚かろう?」

頭に来た私は、今から出掛けるという父を半ば強引に説得し、美優紀の現在の住まいである児童施設へと連絡させた。


美優紀の住まう施設長は父の申し出に有り難く応じている。



斯くして、今度の水曜日から美優紀は住み込みでうちに来ることに決まった。



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