Sympathy For The Angel
水気混じりの雪は薄らと積もり、重い空気が体に纏わりついてくる。

庭の飛び石を滑らないよう慎重に歩いて、ようやく門に辿り着いた。

冷たくなった門扉を片手で開けて、辺りに目を凝らす。

門から一歩踏み出すと、家を囲む塀に誰かが凭れているのに気がついた。


「……樹……?」

すっかり暗い闇の中、塀に寄り掛かるその人の顔は見えない。

だけど私がその姿を見間違うはずなんて無い。



「つばき……」



凡そ似つかわしくない弱々しいその声は、確かに樹のものだった。


「どうしたの?ってか、いつからここに……?」


急いで樹の元に走り寄り、その顔を両手で包んだ。

まるで氷のように冷たい。





いつもは隙がないぐらいに整えられた黒髪からは、幾つもの水滴が滴り落ちている。


「司にお前と狂宴の事を聞いてからは、どこにいたのか自分でも覚えてない。気がついたら、ここにいた」


樹の黒い瞳は何も映していなかった。


空から舞い散る雪も、目の前にいる私でさえも。


「樹。今、家には誰もいないからさ、家でゆっくり話そう……?」

樹の手を取ると、樹は黙って着いてきた。


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