Sympathy For The Angel
樹の単車の後ろに乗るのは随分久し振りだった。

日頃自分達で単車を転がす時はそれほど飛ばさないが、樹は鬼のようにスピードを上げて深夜の幹線道路を駆け抜けていく。


振り落とされないようにしっかり樹の腰に腕を回すと、私が好きな香水の匂いがしてそれに安堵した。


大好きなスパイシーなこの香り。


「……ふふっ」

私の密かな笑い声はバイクの音と共に、雪と一緒に風の中に消えた。





やがてバイクは繁華街の中でも寂れた区画に入り、スナックやらキャバクラが建ち並ぶ如何わしい裏小路の一画で停まった。

そこから更に歩いて5分ほどの場所にあるその店の名前は――――。



「…… 何で、よりによって『club camellia』なのさ……?」


思わず樹に突っ込んでしまった。

「煩ぇよ。さっさと入れ」

ぷいと顔を背けた樹の顔が、真っ赤だったからそれ以上はつつくのを止めたけど。かなり私も恥ずかしいんだけど。



《camellia》って、《椿》って意味だよね?これ喜べばいいの、怒ればいいの。よく分かんないんですけど。


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