Sympathy For The Angel
ハヤトや美優紀は、誰かを憎んだり恨んだりしたんだろうか?

私にはそうは思えない。

この子達がもし誰かを憎んでいるのなら、二人ともがこんなに綺麗な目をしているわけがないんだ。


「それで、ハヤトは紅蓮に入って半年ぐらいでしょ?費用は貯まったの?」


樹につられて私もタバコに火をつけた。


「樹さん達のお陰で手術と入院の費用は貯まったんですけど、病院で手術をして貰えるかどうか、分からないんです」

「何でだよ?」


いつ持ってこさせたのか、樹がロックのブランデーを飲みながらハヤトに聞いた。


「最初は、医大附属病院の心臓血管外科で看て貰ってたんです。けど、俺達に金が無いって事を知った主治医は、小汚ない個人病院に美優紀を転院させたんです。そこは設備も悪いから、本当は医大で手術を受けさせたいのに……」

「……悔しいな、ソイツは」


ロックを飲み干して樹が呟いた。


「……医大附属病院の心臓外科医、何て言う名前なの?」


私の父は医大附属病院の准教授だ。

父が勤めるのは脳神経外科だが、もしかしたら心臓血管外科には繋がりがあるかも知れない。

それに気づいて、ハヤトに主治医の名前を尋ねたのだ。

だが、ハヤトの次の言葉で思わぬ名前を聞かされた私は、愕然とした。


「あのニヤけたツラだけは絶対ぇ忘れねぇ。……八神っつー医者ですよ」

「……八神!?」




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