Sympathy For The Angel
家に帰ると誰もいなかった。

まあ、それが当たり前の家なんだけど。

父親は医大附属病院の准教授、母親はその医師の奥様方との付き合いで毎夜遅くまでは帰って来はしない。

二人ともそれぞれにイイ人がいるのは、家族が皆お互いに知っている。


冷たい家。


だから、私が夜遅くに帰ろうが朝帰りしようが、誰も叱る人などいやしない。



自分の部屋に戻り、動き易い厚手のパーカーとジーパンに着替えると、窓の下から噴かすような単車のマフラーの音が聞こえた。


エリカの単車だと気付き、メットを片手に財布と携帯をポケットにしまって慌てて玄関に飛び出した。


「早かったじゃん」


エリカが苦笑して単車の後ろを指差して聞いた。


「今日はどこ行く?」

「繁華街。行ってみっか」


わたしが繁華街と答えたのには理由がある。

紅蓮がその本業を疎かにしている現在、若者による暴力沙汰が相次ぎ、今や繁華街が無法地帯と化しているからだ。


いわば紅蓮の尻拭いのために、私達は今夜も繁華街に繰り出す。


「りょーかい」


軽く答えて、エリカは単車を素早く発進させた。


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