Sympathy For The Angel
約束した時間にタクシーで美優紀が住む施設に行くと、引っ越し業者の後ろに美優紀と施設長、それにハヤトが立って待っていた。

その女性の施設長は六十代の半ば頃だろうか、白髪半分の髪に緩かなパーマをかけて、上品だが少し厳格な雰囲気も持ち合わせている。


「荷物は?全部用意出来た?」

ハヤトがくたびれたボストンバッグを掲げて笑った。

「大丈夫っす」

「じゃあ、行こうか」


美優紀に向けて言うと、施設長が私の方に歩み寄る。


「遊佐先生にはお電話でしかご挨拶出来ませんでしたが、お使いの方が見えられて事務処理などは済ませてあります。美優紀の事、これからどうぞよろしくお願い致します」

「いえ……」



父親には美優紀の病気の事は臥せている。

近いうちに話すつもりではいるが、ハウスキーパーとの名目で美優紀を同居させる以上、早々にバレたら困るのだ。


「美優紀の病気の事、父は何か言っていましたか?」




然り気無く施設長の様子を探ってみたが、動揺したようには見受けられない。


良かった。バレてない様だ。


「いえ、何も。ですが、美優紀が医大の先生のお家に引き取られるなら私共も安心です。美優紀。遊佐さんにご迷惑をおかけしないでね」

「はい」

「さぁ、行こうか」


あまりこの施設長と長話をするのは良くないかも。


そう考えた私は、美優紀とハヤトが業者のトラックに乗るのを見届けてから、エリカと共に再びタクシーに乗り込んだ。

施設長は車が見えなくなるまで、手を振り続けていた―――。





美優紀の荷物を運んでみると本当に必要な物以外はほとんど私物が無くて、逆に私から美優紀にあげる物の方が多かった。

うちの家族が使っていない箪笥やベッドをハヤトに運ばせながら、少しずつ美優紀の生活のスペースを作っていく。


「ねぇ!美優紀、この服入る?入るんなら貰っちゃいな!」


片付けたはずの不要品の段ボールをエリカがわざわざ引っ張ってきて、中身を盛大に散らかしだした。
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