【続】朝の旋律、CHOCOLATE
ぞくり、と。
体が強張った。
だけど、ここで動揺したら、せっかく哲に黙って貰った意味がない。
哲は関係ない。
哲がいるから、狭山久志に興味が無い訳じゃない。
「あいつに、何か言われたの?」
食い下がらないでよ。
引き下がって。
哲を、視界に入れないで。
手が、震えた。
指が凍り付いたように冷たくて。
最悪、今、この場で。
仕事を辞めて、哲と別れて。
ぶん殴って逃げるのがいいかも知れない、なんて。
「嬢ちゃん!電話だ!」
シゲちゃんの、煙草焼けしたような大声に、再びびくりと体を跳ねさせた。
「…はいっ!今行きます!」
振り切るように、狭山久志を、見上げた。
赤い彼は、大事な先輩です。
関係、ありませんから、と。
それだけを伝えて、私は。
多分、嘘だろう電話を受けに、踵を返した。