【続】朝の旋律、CHOCOLATE
道一本挟んだだけの、婿様宅まで、哲は姫様を送って行く。
さすがにそれに妬く事はなくて、ちょっと自分に安心した。
もし。
もし、このお箸ケースを。
あの子が取りに来ていたら。
ひとりで、今みたいに、取りに来ていたら。
私が死んだって償えないような事態に、なっていたかも知れない。
戻って来た哲の、赤い髪を見ながら、私で良かった、と。
そう思う。
「…て、つ」
「ん~?」
「……」
「………なに」
……い…言えねぇ。
私も抱っこ!
とか!
ノリで言っちゃうつもりで呼んだはいいけど!
言えやしない!!
口は回らないし、顔は斑点だらけだし!
首にまで痣があって!
今、私、汚ったないもん!
「蜜」
…でも。
哲は。
私の事で、解らないことなんか、ないんだ。
私の欲しいタイミングで。
私の欲しい、体温は。
ちょっと甘やかされた苦笑と共に、与えられる。