【続】朝の旋律、CHOCOLATE


ほんの数分で、ドアの外は静かになった。

婿様の声がしたから、工場に連れて行ってくれたんだと思う。




「哲、行こ」

「………マジで行くの?」

「行く、っての」


でも、ちゃんと…手ぇ繋いでてね?



ギシギシと鳴るような筋肉痛を耐えて、階段を下りれば。

工場の前に、乱暴に停められた、BMW。



手を繋いだまま現れた私達を見た、狭山久志の父親の、憎々しげな、目。

ただオロオロと、何も把握していないような、母親の怯えた、目。



私は。

狭山久志の母親が、いきなり号泣しだしたのを、止めようとは思わなかった。


思わなかった、けれど。



……可哀想に、と。

ぎゅ、と胃を掴まれたような苦しさを、感じた。




< 322 / 422 >

この作品をシェア

pagetop