【続】朝の旋律、CHOCOLATE
ほんの数分で、ドアの外は静かになった。
婿様の声がしたから、工場に連れて行ってくれたんだと思う。
「哲、行こ」
「………マジで行くの?」
「行く、っての」
でも、ちゃんと…手ぇ繋いでてね?
ギシギシと鳴るような筋肉痛を耐えて、階段を下りれば。
工場の前に、乱暴に停められた、BMW。
手を繋いだまま現れた私達を見た、狭山久志の父親の、憎々しげな、目。
ただオロオロと、何も把握していないような、母親の怯えた、目。
私は。
狭山久志の母親が、いきなり号泣しだしたのを、止めようとは思わなかった。
思わなかった、けれど。
……可哀想に、と。
ぎゅ、と胃を掴まれたような苦しさを、感じた。