【続】朝の旋律、CHOCOLATE


でもな、食わないと、いつまでも帰れないぞ、なんて。

哲は、お母さんみたいな事を言う。


真っ赤な髪で。

耳にも、眉にも唇にもピアス。
一見、とても派手で。

あまり笑顔を浮かべないから、いつもつまらなそうに見えるけれど、結構、楽しんでることが多いみたい。



「ねぇ私、ずっとこの部屋?」


よく見たら、ポットと紙コップ、インスタントのコーヒーとか、紅茶のティーパックまで備え付けてあるんだ。

…ホテルかっての。



「差額は社長の奢り」

「マジ!?」


ちょっと大きな声を出した途端に、咳き込んだ。

哲は、当たり前のように私のベッドに腰掛けて、背をさすってくれてから。



頼むから、食ってくれ、と。
私の目許に、唇を当てた。


……のが、なんだかひんやり、気持ち良くて。

なんだかやたら、緊張して。



スプーンに掬われて、口元にあてがわれた、お湯のような粥をひとさじ、おとなしく口に含んだ。



< 87 / 422 >

この作品をシェア

pagetop