桃橙 【完】
「なぜ…どこで出会ったのでしょうか。安芸と」



落ち着かせるように、珈琲カップを口に運ぶ春河 遙を見やってから



「不動産さんで、かな」


「不動産?」


「家を借りたいって、きたんですよ。俺のところに」


「………」


「まぁ、それで放っておけなかった、というところです」


「そうですか」


「いえ、それで今日はどういったご用件で?」


「……安芸を連れて帰ります」


「…連れて帰る?」


「はい。ずっと探していました。…お世話になったお礼はいたします。安芸を」


「それは、できかねます」


「…どうして」



俺の言葉に、春河 遙の顔が一瞬にして歪む。



「申し訳ありません。…私よりも、父が…安芸のことを気に入ってしまいまして、私の一存では安芸を春河家に帰すことはできかねます」



それは、本当のことだった。


父さんは、細かな時間を作っては家に帰ってきて、安芸との時間を過ごしている。


安芸を総のところへ嫁にやるのだって、本当は嫌なんじゃないかと思うほどだった。
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