桃橙 【完】
――…
「会わせる必要がない」
「…お前な、あの兄貴はそんな悪い奴じゃねぇよ」
「今は、という話だ。春河家になんらかの制裁を与える。それからでも遅くはない」
「……父さんと同じこと言うんだな。お前」
「…全ての資料を読めば読むほど、はらわたが煮えくり返りそうだ」
「それは、俺だって一緒だよ」
「………」
「その分、総が安芸を満たしてやればいいだろ」
「無論、そのつもりだ」
「でもよ、お前あれはあからさますぎるぞ」
「なにがだ」
「キスマークだよ、キスマーク!鎖骨のところについてたぞ」
「あぁ…」
「父さんも、気付いて気付かないふりしてたし」
「それは、悪いことをしたな」
「お前、人の実家でさかるなよ」
「……最後まではしていない」
「そういう問題じゃないだろ」
「褒めて欲しいくらいだ。…青柳社長に婚約するまでお預けをくらったからな」
「…まじか」
俺は、総の耐え忍ぶ顔を見てこみ上げてくる笑いを噛み殺すのに必死だった。
あの総が。
あの総が…ここまで感情を露わにして安芸を抱けないことに拗ねているなんて。