桃橙 【完】
「………」



何も言わない遙に、雅は口を尖らせて、遙の傍に腰掛けた。



「ねぇ、本当にどうしたの?…一緒にご飯を食べましょう?」



その言葉に、遙はピクリと体を動かした。



「……安芸もよく言っていた。俺とご飯を一緒に食べたいと」


「………」



安芸の話が出てきたことに雅は、ムッと口を閉ざす。



「…でも、母に止められて一度も食べてやれなかった……」


「………」


「挙句の果てには…あんなことまで…っ」



遙お兄様が、安芸の会食の件を酷く悲しんでいたことは雅にもわかる。


安芸のことは嫌いだ。


本当に大嫌いだ。


でも…あれは、もしも自分の身に降りかかっていたらと思うと、正直ゾッとする。


遙は独り言のように、小さな声で話す。



「…俺は安芸を幸せにしたい」


「………」


「それは……兄だからだと思っていた…」



遙の意味深な言葉に雅は遙の顔を見つめた。
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