桃橙 【完】
――…
「……安芸」
そのまま、ぐったりと意識を失った安芸を着替えさせてからベッドへ運んだ。
寝顔の安芸の前髪に触れて
額に甘いキスをして、総は部屋を出たのだった。
そのまま青柳社長の部屋へと話をしようと向かった。
「…むろん、それは視野にいれている」
「私も、最悪の事態を考えています」
「そこまで何かになるとは思ってはいない、……が、用心に越したことはないだろう」
青柳社長も深く頷いて、先日会ったばかりの春河の長男を思い出していた。
「あの春河くんが…何かするとは到底思えない」
「えぇ、もし何かしてくるとすれば…」
「逆恨み、も考えられるからな。わかった。安芸には蜜季くん以外の護衛もつけよう、それから陶弥にも話しておく」
「…すみません。私の取り越し苦労ならいいのですが」
「いや、君が安芸のことを大切に思っていてくれているのがこうしていると日々伝わってくる。君が安芸の相手で本当によかった」
その言葉に、一瞬だけさっきまでの安芸の表情を思い出してから総は
「いえ、私も安芸の家族が青柳家でよかったと…心から思っています」
深く頭を下げたのだった。