桃橙 【完】
「恐らく、雅さまを送った車でしょう。…勝手に運転したのかどうかはわかりませんがこの車のナンバーは、春河のものです」


「……どこへ向かった…」


総の問いかけに3人とも押し黙る。


「総、安芸の携帯のGPSは?」

「今調べている」

「私は雅さまを送った運転手に話を聞いてみます」


3人は、一旦空港を出て青柳本社へと向かった。


「…この場所は?」


安芸の携帯のGPSが示す場所を蔵宇都へ見せると


「これは、遙さまの別荘です…」

「春河の?」

「いや、でもこの別荘はもう売り出されたはずじゃ」

「…窮鼠猫を噛む、何をするかわからない。行くぞ」


総は、立ち上がり陶弥と蔵宇都を連れて部屋を出る。


「父さん、何かあったら応援を頼みます」

「無論だ。頼んだぞ陶弥」


顔が強張ったままの父さんに、力強く頷いて俺は総たちの後を追った。


「…空港から向かった方がはるかに近かったな」

「そうだな…」


辺りはすっかり日が落ちていた。


「遙さまに確認を取ったところ、やはり、雅さまは先日この別荘にいらしていたと」


「なにを考えている、春河 雅…」


ギリリ、と奥歯を噛み締める総に助手席に座る陶弥は目を細めた。


…安芸


みな、頭の中では最悪の事態を一度は想像したはずだ。


…あの氷のような冷たい瞳をした女。


春河が一家で謝罪に来たときも、あの女だけは決して謝罪の言葉を口にはしなかった。


終始、自分の両親を冷めた瞳で見つめていた。


あの女に幼いころから安芸が何をされていたのか…


それを思うと、今の状況は平常心ではいられなかった。
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