桃橙 【完】
――…
虫の音が響く頃になってようやく、春河の別荘へと車は着いた。
別荘へ行けば、扉はあいたまま、明かりはついていない。
3人とも無言で別荘に明かりをつけようとしたが、つかない。
「電気が通っていないか…」
総が忌々しそうに、舌打ちをする。
「安芸っ!!どこにいる!安芸っ!」
下、2階、ロフトまでくまなく探しても2人の姿はない。
1階のリビングに安芸の鞄、そして雅のものと思われる荷物があっただけ。
「…探せっ、この辺りを探せ」
総の言葉に、控えていた者達が動き出す。
「…警察呼んだほうがよかったかな」
苦々しく口にする陶弥にたいして、総は―
「…状況により、だ」
「………」
総の気持ちは痛いほどにわかった。
もうすぐ総の婚約者として安芸の披露目がある。
だからこそ、無駄に騒ぐのは避けたほうがいいと、判断したのだろう。
「とにかくだ、俺達も探そう」
蔵宇都の姿はすでにいなく、すでに探しに出ているようだった。