桃橙 【完】

――…


「総さまっ!」


「今のお声は…」



俺達の探していた場所から離れた場所で女の声が聞こえたと、報告が入り、急いでその山林へと駆け出した。



「どこだ!」


「安芸!!」



懐中電灯を照らしながら、奥へ奥へと足を進めていく。



「総っ!!こっちだ!」



陶弥の声に弾かれるように、その場所へいけば


崖の下に小さな炎を灯した場所に女2人の影が見えた。



「安芸っ!!」



俺は声を張り上げて、崖を滑り降りる。



「おいっ、総!」



陶弥の静止も聞かずに、急斜面を駆け下りる。



「安芸っ!安芸!」



その場所へと向かえば



「お前は…」



春河の長女、春河雅が、震える手で木に炎を灯していた。


隣の安芸を視界にいれれば



「……遅いわ…」


「お前はっ」


「早く…安芸を、びょう……ぃ、」



そのまま、春河雅は炎を灯したまま倒れそうになり慌てて火を足で消した。



「宗元さま!」



蔵宇都も続いて降りてくる。



「上がるぞ、蔵宇都。できるな」


「もちろんです」



懐中電灯をおき、2人の姿を照らす。



「…ッ、安芸っ!!」



その酷い姿に俺は慌てて駆け寄り、安芸の体温を確認する。


……生きてる…


その体温に、温かさに感謝をしてから、安芸を背負い、少し遠回りにはなるが周り道をして崖を上がった。


ちらりと後ろを見れば、蔵宇都が春河雅を背負っている姿が視界に入った。


春河雅も一瞬みただけだけだが、ひどい傷だった。


総は、一体何があったのかと顔を顰めたまま温かい車に安芸を乗せて、すぐさま病院へと車を走らせた。
< 240 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop