桃橙 【完】
――…
「総さまっ!」
「今のお声は…」
俺達の探していた場所から離れた場所で女の声が聞こえたと、報告が入り、急いでその山林へと駆け出した。
「どこだ!」
「安芸!!」
懐中電灯を照らしながら、奥へ奥へと足を進めていく。
「総っ!!こっちだ!」
陶弥の声に弾かれるように、その場所へいけば
崖の下に小さな炎を灯した場所に女2人の影が見えた。
「安芸っ!!」
俺は声を張り上げて、崖を滑り降りる。
「おいっ、総!」
陶弥の静止も聞かずに、急斜面を駆け下りる。
「安芸っ!安芸!」
その場所へと向かえば
「お前は…」
春河の長女、春河雅が、震える手で木に炎を灯していた。
隣の安芸を視界にいれれば
「……遅いわ…」
「お前はっ」
「早く…安芸を、びょう……ぃ、」
そのまま、春河雅は炎を灯したまま倒れそうになり慌てて火を足で消した。
「宗元さま!」
蔵宇都も続いて降りてくる。
「上がるぞ、蔵宇都。できるな」
「もちろんです」
懐中電灯をおき、2人の姿を照らす。
「…ッ、安芸っ!!」
その酷い姿に俺は慌てて駆け寄り、安芸の体温を確認する。
……生きてる…
その体温に、温かさに感謝をしてから、安芸を背負い、少し遠回りにはなるが周り道をして崖を上がった。
ちらりと後ろを見れば、蔵宇都が春河雅を背負っている姿が視界に入った。
春河雅も一瞬みただけだけだが、ひどい傷だった。
総は、一体何があったのかと顔を顰めたまま温かい車に安芸を乗せて、すぐさま病院へと車を走らせた。