桃橙 【完】
――…
「水嶋さん、これは?」
「…あ、はい…」
俺は、水嶋さんを連れて近くのデパートへ来ていた。
まずは、必要最低限度のものを揃えてやろうと思った。
けれど、さっき購入した食器や調理器具もさして興味がなさそうだった。
このベッドを購入する時もそうなのかと思い様子を見ていたが、ある一つのベッドを見てから、水嶋さんの動きが止まっていることに気付いた。
「水嶋さん、このベッド欲しいの?」
「…え、…いえ、そういうんじゃないんです」
「そう?いいよ、シングルサイズだと狭いからこのくらい広くてもいいと思うけど」
「いえ…私、あのベッドでいいです」
水嶋さんが指差したのは、ひどくシンプルなシングルベッド。
本当にモノに執着がないというか…欲がないというか…。
俺は、そんな水嶋さんに返事をしながら、店員に声をかけた。
そんな俺の横で、さっきまで見つめていたベッドを水嶋さんは、また凝視していた。