桃橙 【完】
――…総さん…
安芸が見つめていたベッドは、総の部屋にあったものに似ていた作りのものだった。
あのあたたかな部屋で、いつも総さんは一緒に抱きしめて眠ってくれていたのだと思い出して、胸が締め付けられて苦しくなった。
…けれど、安芸はこれ以上自分の気持ちに向き合えば、総に会いたくてたまらなくなってまた苦しくなる、とそう思い、自分の想いに蓋をしたのだった。
「本日の配達ですか?」
「あぁ、頼む」
店員と話をしてながら、ふと視線を外したその時だった。
エレベーターから降りてきた団体が見えた。
あれは…
「総…?」
俺が呟いたときに、店員に話しかけられた。
「青柳さま、本日ですと…」
「はい、今日配達していただけますよね?」
無理なことだとはわかっていたが、青柳の名を使ってすぐに運んでもらうことにした。
手続きを済ませてから、水嶋さんに声をかけた。
「水嶋さん、下に降りようか」
「……あっ、はい…」
俺の声に驚いたような水嶋さんに、
「どうかした?」
「いえ…」
「次は3階で、着替えとかを買おうか」
「はい」
俺は水嶋さんを連れて、エレベーターへと乗り込んだ。