桃橙 【完】

――…



「着替えも買ったし、…まぁ、足りないのは徐々に買い揃えればいいかな」


「あの、」


「水嶋さん、お腹空かない?夕ご飯ちょっと早いけど、一緒にご飯でも食べようか」


「……私は、」


「あぁ、何か食べたいのある?」


「…青柳さん、」


「ん?なに?」


「…お金、一度も払ってないので…」



黙っておごられておけばいいのに、なんて律儀な彼女なんだろうと思った。



「いいよ。最初から君からお金を取ろうだなんて思っていない。それに、無職の水嶋さんからお金なんて取れないよ」


「でも…、そんなの」


「いいから!…じゃあ、安芸って呼んでもいいかな?」


「え?」


「なんかさ、水嶋さんじゃすごく遠いんだよね。今日の買い物、俺にお金を出させて悪いと思っているなら、名前で呼んでもいい?」


「………」


「ほら、それで決まり。安芸が嫌なら、安芸ちゃんでもいいけど…」


「あの、青柳さん」



まだ、俺の言葉に納得がいかない素振りを見せる安芸の頬に、そっと手を添えた。
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