桃橙 【完】
――…
「お兄様?」
雅は、安芸の住んでいた離れに足を運んでいた。
あれから遙お兄様は、出て行くことなくこの家にいる。
安芸が探し出せていないのも、一つの理由だけれど
お兄様は、仕事をする意外は安芸の部屋に閉じこもるようになっていた。
「お兄様、いらっしゃるんでしょう?雅です」
相変わらず、この襖の向こうからは返事がない。
「お兄様。私、お兄様の好きなタルトを焼いたの。一緒にお茶をしましょう?」
それでも、返事のないことに雅はため息を零して、襖を開けようと手をかけた。