桃橙 【完】
同じ畑の仕事をしているから顔と名前は知っていても、特に顔見知り、という訳ではなかった。


普段通りの挨拶をして、立ち去ろうとすると



「…安芸ちゃん」



園山社長は、安芸に声をかけてきた。



「………」


俺は驚いて、安芸を見つめると



「…お父さんが、探していたよ。こんなところにいるなんて…」



園山社長に返事もせずに、ただ黙って俯く安芸を俺はなんとなしに見つめていた。



「安芸ちゃん」



そう言って、園山社長が伸ばした手を安芸は、小さな悲鳴と共に取り払う。


普段大人しい安芸がそんなことをするなんて、と俺は、目を見開いた。
< 76 / 260 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop