椿山亜季人の苦難日記
廊下を歩きながら、千歌がパタパタと下敷で風を送る。


その後ろに立つと、こぼれる風をあびれる。


「なんで後ろ歩いてんの?」

千歌が不審そうにこちらへふりかえった。


「いやぁ~、風があたるんだよ~。労せず涼めるというベストポジションなのさ。」


ちょっと自慢げに言ってみると、


やっぱり下敷きで叩かれて、逆に扇がされた。


隣を歩かされて。



不機嫌なこの女は、ホントに扱いづらい。



でも、ま、怒らせても大丈夫かと思う。



「アキさんは、頭いいけどバカだ。」



ぷいっと、向こうを向いてしまった。


「えー、ひどい。」



ああ、そう。


隣にいるのにテレるくらいなら、やらなきゃいいのに。



「ねぇ、千歌ちゃん。」



そんな様子見たら、訊きたくなるじゃん。



「人の心は、簡単に変わるものじゃないよね。」




千歌は、こっちを見て、足を止めた。

ハッとした顔をして。



それから、ゆっくり目を閉じた。


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