椿山亜季人の苦難日記
目の前に立つ、女の黒髪が揺れて、振り返ったその表情は崩れかけていた。


「…考えてたんだ、ずっと。でも考えるほど、悪いほうに行くっ…。」
 
手で顔を覆って俯く。

「私が正直になればそれだけ…、日和を追い詰めてたんじゃ…」



言い終わる前に、両手で千歌の顔を覆ってあげさせた。

驚いて目を丸くする彼女に笑いかけた。

「違うんじゃない?」

あの子は守ろうとしたんだから。

「日和ちゃんの支えにもなったはずだよ。」



頬にふれていた手に、水滴が落ちた。


それが千歌の涙だと、認識するころにはもう、千歌は俺から離れて、顔を袖で拭った。

そして、いつもみたいな強い目で笑った。



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