椿山亜季人の苦難日記
亮介は、ただ不審そうに俺を見ている。


「笑い事じゃないっ、前から、時々空気がおかしかったんだ!!ずっと見てたんだから…気のせいなんかじゃないっ!」

怒りながら発したその言葉に、図らずも胸が高鳴った。



そうだよ、悩んでいたさ。

今だって…、欲しくて欲しくて、

手の届くこの距離に、ずっといられたならって。


「…そんなの、分かるわけないじゃないか…」


でも、どうせ、触れられなくなるなら、

触らないままの方がいいって。

だって、そうだろう?




「千歌ちゃんと俺は、全く別の道にいるんだから。」



締め付けられるような痛みに、歪めた心とは裏腹に、

俺は、明るく笑いながら、そう言った。




< 152 / 169 >

この作品をシェア

pagetop