椿山亜季人の苦難日記
自分の中で、一人混乱する世界に、
「ねえ、亮介くん。」
静かで、優しい声がする。
「焦らなくても、いいと思うの。
ちゃんと落ち着いたら、見付かると思う。
相手の言葉に傷付いても、
相手を傷付けてしまっても、
それでも、そばにいることを、心から、望む人…。」
照れたように、
少しつらそうに、
日和ちゃんは言葉をつむぐ。
俺は、彼女の声以外、聞こえなかった。
あぁ、分かった。
認めよう。
俺は、彼女のことが好き。
そして彼女は、
他の誰かを好きなんだって。
繰り返す、
痛みを忘れて、繰り返す。
また、逃げようか?
もう傷付かないように、
君を傷付けないように。
いや、
ごめんね、日和ちゃん。
君のそばを
望んでもいいかな?
俺の恋が、本当に動き出すのは、もう少し後のこと。
【第一章:END】