椿山亜季人の苦難日記
「じゃあ、俺、春が好きだから、春の黄緑色の空!」

亮介が真っ先に小さな体で背伸びして、一面に色を重ね始めた。

「おっ、亮介やるじゃん!じゃ、私、夏ってことで!」

それに続いて、千歌が紫色を塗り始めた。


「あ、千歌っ紫!?…じゃ、私は、秋の茜色で。」

不安そうにしていた日和も、ハケをとった。

その様子を見ていた亜季人は、少し柔らかく笑んで、ハケとペンキを持って、輪に加わった。


「じゃー、俺、冬の灰色~。」



「なにそれアキさん、つまんない色ー!」

「センス無いー。」

「うるさいな~。何でもいいって言ったくせに。」

「三人ともやめなってば!」





出来上がったものは、とてもセンスの良いものだとはいえなかった。





いつかは、消えるかもしれないもの。



でも、それが怖くはなくなった。


寂しいのは、それだけ貴重な時間だったから。



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