椿山亜季人の苦難日記
「それで田崎、始まる前にそのアンケート取りに来て、皆にやらせといてくれ。」


ホームルームの前は、生徒会の会議もある。間に合うかな…。


「返事は!?」


「はっ、はい!!」


…心臓に悪い。


何だろう、この人は…。


無表情というか、愛想がなくて、声が低くて、強い、

本当に、『男の人』。

ただでさえ、男っぽい人って怖くて苦手なのに、こんな威圧的な人、絶対無理!

この先慣れるなんて絶対…

「田崎」

「はい!」



立ち去ろうとしたとき、突然声をかけられて、驚いて思わず声がでた。



振り向くと、先生はこちらを向きもせず、書類整理を続けたまま、



「嫌なときは、返事は『嫌です』って言え。」




先生が見ていた書類は、クラスの生徒の志望校調査表。



「…分かりました。」


出口に向かいながら、一瞬見えたのは、一人一人にびっしり書かれた傾向と対策と計画。


「失礼しました。」


『威圧的』な彼の中に、ほんの少しの柔らかさを、見た気がした。
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